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自担の本を読み直してみた【染色編】

明日から、自担の脚本家デビュー作を飾る舞台が始まる。原作は自担の短編小説集『傘をもたない蟻たちは』より『染色』。主演は関西ジャニーズJr.、Aぇ! groupの正門良規さん。この舞台に行くにあたり、今一度内容を頭に入れていった方が面白いのではないかと思い、改めて自担の本を読み直すことに。内容を咀嚼して簡単に思い起こす為、読んだ後の頭を整理する為にこうしてエントリーを書いている。が、そもそも本を読むことが苦手な私(増田さんと一緒だね)が本を読むきっかけになればという想いもある。この先こうしてエントリーを書くかもしれないが、読みたい物から読むので、きっと発売順にはならないだろう…。自担の本はほぼ全て読んでいるが、こうしてエントリーで書くのは初めて。読書感想文という物が昔から大の苦手なので、ただの読書メモのような物になっている。

【主な登場人物】

市村文登(いっくん)…美術大学の学生

橋本美優…市村と同じ大学の学生

橋本杏奈…市村の彼女

 

【感想】

読み終えて、冒頭部分の文章が、そっくりそのまま最後を締める文章になっていることに気付いた。冒頭はもちろん読み初めなので「どんな背景を持つ人のお話か?」と思いながら読み始め、最後は全てを読んでからなので「そういう意味か」と理解。発売当初に読んだ時は、自担が書く性的な文章に唖然とし、その事ばかりが頭の中を占めてしまって内容を理解できなかった。しかし今回、前回よりは理解できたと思う。

私の自宅から一番近い大学が美術大学で、時々近所や電車の中で見かける。でも、見るからにアーティスティックなビジュアルの学生さんは見かけたことがほぼない。ただ、大きい荷物を抱えていることが多いので、美術大学の学生さんだとわかる。初めの居酒屋のシーンで、市村の友人たちがお互いの作品について侮辱的な発言をしている。ぱっと見普通の大学生が、お酒を飲んで作品を語る内に熱くなり…。私の周りでは「成績が良い」「顔がカッコいい」「話が面白い」こんな人が人気者で、他人から羨ましがられていた。だけど、この市村の友人たちは違う。成績のように数字では表すことができない、顔や話の面白さのように才能を表すけどもっと自由度が高い自分たちの作品、つまり“才能”について語っていた。才能は自分自身と同じことなのに、こんなにも悪く言い合うなんて。お互いに気を遣わずに、才能同士で接しているからこそできる発言なのかなと思った。また、自分にはそんな人がいないので羨ましいとも思った。

市村と杏奈はごく普通のカップル。学園祭で杏奈は市村の作品を見て、優しい感想を言う。でもそれは全く市村の作品性を理解していなくて。それでも市村が杏奈に何も言わないのは優しさから。お互いを傷つけないように思い合っている。一方、市村と美優はカップルではない。美優の作品に惚れ、美優自身にものめり込んでいく市村。美優も市村の作品を見ていて、ダメな所も含め市村の作品性を理解していた。そんな2人は、初めの居酒屋のシーン、市村の友人たちがお互いの作品を素直に語るように、吸い込まれるように抱き合う。美優は少し不慣れなのか市村主導の行為。美優と市村が抱き合うシーンでは直接的な表現が避けられていて、美優の容姿も相まって美しさを感じるほど。*1 しかし、最後に美優がロンドンへ旅立った後のアパートに訪れて、下半身裸で市村が行っていた行為は、どストレートでは無いものの、どこか荒々しさを感じる表現だった。

杏奈という彼女がいるにも関わらず、美優を抱く市村。一般的に考えて、これは立派な浮気である。ただ、この市村に対してそこまでの嫌悪感は抱かなかった。それは、杏奈と市村の間には愛があるが、美優と市村の間には愛が無いから。お互いの作品を認めてはいるが、イコールお互いのことが好きということではなく。ただ単に身体で会話をしているだけ、コミュニケーションをとっているだけのように感じた。

大学を卒業してお互いの道に進む市村と美優。2人はもう会うことがなくなったし、2人の思い出である橋脚のアートも綺麗に消されてしまったけど…。市村の心にだけでなく腕や身体の他の部分にも、美優が染み付いている。それは美優が吹きかけたカラースプレーのようであるが、ただの肌色で色は見えない。電話番号以上の情報があると、彼女である杏奈との関係が悪くなってしまいそうだが、形に残らない美優の染みは杏奈には見ることができない。逆に美優は市村のことを、カラースプレーを自身に吹きかける度に思い出すのだろうか………。

*1:美優と比較するように、彼女の杏奈は市村と会うたびにふくよかになっている。ただし、元々細かったので肉がついて柔らかくなり、決して嫌いになったということではない